大会長挨拶
わが国の精神科病床では,年々入院患者の高齢化が進展し,65歳以上の割合は56.4%に達しています。高齢化に伴って身体面でのリハビリテーションへの需要が高まり,令和2年度の診療報酬改訂では精神科療養病棟で,令和4年度には精神科救急・合併症治療病棟での疾患別リハビリテーションが認められるなど,精神科での疾患別リハビリテーションを推進する改訂が続き,精神障がい者に理学療法を提供する機会が増えることが期待されます。また,国内外で精神障がい者に対する運動介入効果についての知見が集積しつつあり,身体機能だけでなく,認知機能や精神症状の改善にも寄与することが示唆されています。
このように,医療制度の面でも,学術的な観点からも精神障がい者に対する理学療法の必要性や有効性は伺い知る事が出来るのですが,そもそも精神科病院が疾患別リハビリテーションの施設基準を取得することは容易ではありません。
作業療法士協会の調査によると,令和2年度の改定以降,精神科療養病棟で疾患別リハビリテーションの算定を開始したのは10%に過ぎず,58%が算定していませんでした。算定していない理由としては「疾患別リハビリテーションの医師要件が満たせず取り組めない」,「専用スペースなどの施設基準を満たすことができない」,「対応する療法士がいない」といった回答が多くを占めていました。このように精神科病院では疾患別リハビリテーションの施設基準を取得し難い状況がある為,精神科に勤務する理学療法士は理学療法士協会員の0.2%と非常に少なく,現在は精神障がい者に十分な質と量で理学療法が提供されているとは言い難い状況です。今後は,理学療法を必要とする精神障がい者に,適切に理学療法を届けることの出来る体制が必要であると考えます。
本学術大会では「精神障がい者のリハビリテーションにおける理学療法の役割」というテーマを掲げ,精神科の臨床現場で行われている理学療法について学術的に深く掘り下げ,その有効性や必要性を科学的に示す場にしたいと考えています。そのため,私の大会長講演に続けて,特別講演として宮崎大学医学部教授であられる荒川英樹先生をお招きし,「精神疾患に対する運動療法の効果」についてご講演頂く予定です。さらに,シンポジウムでは,精神と身体の両方に精通した理学療法士,作業療法士の先生方にご登壇頂き,「精神・心理領域におけるリハビリテーションの未来」について討議して頂きます。様々な角度での意見交換から,この分野の目指すべき方向性が示唆されることを期待しております。また,本大会は理学療法士だけではなく,協業する多くの職種の方々に,全国各地からご参加頂きたいと思い,参加の容易なWeb開催としています。より多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第12回日本精神・心理領域理学療法学会学術大会
大会長 細井 匠(武蔵野中央病院)